第39回日本神経科学大会

日時
2016年7月20日(水)~22日(金)
会場
パシフィコ横浜
大会長
入來 篤史(理化学研究所脳科学総合研究センター)

ご挨拶

脳と心、すこやかに

第39回日本神経科学大会
大会長 入來 篤史
理化学研究所脳科学総合研究センター

いま、私達の日常社会のなかで、さまざまな「こころの問題」が注目されています。人生をより豊かに幸せにおくるために、そして直面するさまざまな問題を理解し解決するために、こころのメカニズムの解明は、これからの脳神経科学の大目標です。今年の第39回日本神経科学大会は、第31回国際心理学会議と、同じ会場で連続して開催します。これを好機として、本大会は『脳と心、すこやかに』をテーマに、脳神経科学分野の最先端で活躍する国内外のトップ研究者が糾合し、我が国の次世代の神経科学を担う気鋭の研究者とともに、脳と心のメカニズムの解明を期して、分子細胞生物学的基礎から臨床医学/心理学に亘る幅広い研究分野の学術領域の振興と、世界をリードする研究の活性化を図ることを目指します。

しかし、心理的な現象である「心」のはたらきと、生物的な臓器である「脳」機能のメカニズムとの間には、まだまだ大きなギャップがあります。人間の心は、個性ゆたかで多様性に富み、人生の経験や歴史とともにうつろいゆくものですから、できるだけ単純な要素還元論的な説明や再現性と普遍性を追及する現代自然科学の作法とは、実は相性がよくないのです。けれども、「心」は私達の「脳」のはたらきで生み出される、と誰もが思っていますから、それを知りたくなるのも、また人間です。脳神経科学は、すぐその手前まで手の届くところまで来ている、と人々の期待をあつめています。わたしたち神経科学者はそれに真剣に応えようとしています。

ここに必要なのは、立場の異なる人々がお互いに敬意をもって寛容に向かい合い、絶え間なく交流することによる相互作用でしょう。そのためには、有効な仮説を幾つも組み立て、一つ一つ丁寧に吟味してゆく以外にありません。こうした実証実験で得た事実に基づいて元の仮説を再検討し、それが修正されたり否定されたりしながら、これを幾度も幾度もくりかえすことが、研究の進歩を確実に牽引します。脳神経科学は、人間の心の問題に科学的な客観評価軸をもとめる、現代社会の要請に答えようとしています。そしてそこには心のメカニズム解明という、学問的な大挑戦としての躍動感、真実を追及して深く考える学者の本分としての醍醐味があります。

この相互作用をより内容の濃いものにするために、本大会では国際心理学会と協働して、さまざまな連携・共同企画を予定しています。脳と心の理解は、『人間』を理解することでもあります。さらにここで、そのメカニズムの一端でも、従来の自然科学的な機能分子や神経回路の言葉に翻訳するための、これまで困難であった新たな方法を編み出すことができれば、現代社会が直面するさまざまな心の問題を直ちに克服して、すこやかな脳と心をはぐくむ手掛かりが得られるかもしれません。本大会が、そのような契機となることを願っています。